(c)Kamioka Observatory,ICRR(Institute for
Cosmic Ray Research The University of Tokyo)

クリアな未来のプロジェクト PROJECT 02

プロジェクト02 | クリアな未来のプロジェクト

スーパーカミオカンデ

プロジェクト始動

5万トンのタンクを超純水で満たす。 水のプロフェッショナルとして挑む、 宇宙プロジェクトへの参画。
国内最大級、世界最高水準の 水のプロフェッショナル として挑む、 宇宙プロジェクトへの参画。

宇宙誕生の瞬間、何が起こっているのか?この問いに、心ときめかない者はいないであろう。東京大学宇宙線研究所は、世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」によって、深遠な宇宙の成り立ちや物質の起源の謎を解き明かそうとしていた。

世紀の観測装置の構築にあたり、必要不可欠な要素が、究極の純度を持つ水だった。直径約40m、高さ約40mの巨大なタンクを満たす5万トンの水は、宇宙から降り注ぐ微少なニュートリノのわずかな光であるチェレンコフ光を捉えるために、観測の邪魔になるあらゆるノイズを遮断する「超純水のスクリーン」の役割を果たす。空気中の塵、微生物、そして自然界に存在する微量の放射性物質すら含まない、究極の透き通った水のスクリーンがあって、はじめて観測が可能となるのだ。

現代物理学の完成形とされるスタンダードモデルの壁を打ち破り、その先にある真の宇宙の法則を見つけ出そうとする研究者たちの挑戦と、究極のスクリーンづくりによって研究をサポートし、プロジェクトを推進させるオルガノとの共創が始まった。

※光速を超えた時に発生する衝撃波を見出したロシアの物理学者パヴェル・チェレンコフに由来。

プロジェクトメンバー

  • 望月 寛盛

    1993年から本プロジェクトに参画。設計時および建設時のプラント系営業担当。現在、執行役員、機能商品本部 機能商品事業部長 ※本プロジェクトにおいては、営業、技術、建設などオルガノから約8名のメンバーが参画。

FOCUS 01

不可能を可能にする、
研究者との二人三脚。

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Cosmic Ray Research The University of Tokyo)

「絶対に成功させましょう」、 その思いを共有して。

スーパーカミオカンデは、鉱山の地下1,000mの場所に位置し、地下から宇宙を観測するという壮大なアプローチだ。岩盤は宇宙から降り注ぐ不要な粒子(宇宙線)を遮り、全高41.4m、直径39.3m、5万トンの超純水で満たしたステンレス製タンクはニュートリノを捉える。

5万トンの水に超純水が求められる理由は、水中にわずかでも不純物があると、ニュートリノから発生した微弱なチェレンコフ光が遮られてしまうからだ。オルガノに課せられたミッションは、極限まで磨き上げられた超純水の開発に加え、地下深部の設備設計、配管ルートの最適化、緻密なシステム管理など、水に関するトータルソリューションだ。この責任重大な任務に抜擢されたのが、新入社員の望月だった。

「前プロジェクトの“カミオカンデ”においてオルガノは超純水を供給した実績があり、観測の精度をさらに高めるために、“スーパーカミオカンデ”がスタートしました。それが私の入社と同時期で、いきなり営業の大役を任されたわけです。東京大学の研究室を訪ねると、書類や資料がうず高く積まれたその奥に、若き日の梶田先生がいらっしゃって、書類の山に埋もれながらディスカッションを重ねたのを鮮明に覚えています」と望月が当時を振り返る。

梶田先生とは、後にスーパーカミオカンデによってニュートリノ振動を発見し、ノーベル物理学賞を受賞された東京大学の梶田隆章教授のことである。望月が続ける。
「梶田先生はとても温厚でお優しい方なのですが、宇宙の話をする時だけは止まらないのです。難しい話をわかりやすく繰り返ししてくださり、宇宙の謎を解明する力に自分もなりたいと意を強くしました。お互いに『やりましょう、絶対に成功させましょう』と呼吸を合わせ、それがプロジェクトの加速につながったと思います」。

水のスクリーンに求められた、 唯一無二の超純水とは。

5万トンもの水からあらゆる不純物を取り除き、完璧なスクリーンを作り出す。一般的な超純水装置が数トンから数百トン規模であることを考えると、水のスクリーンで追求するチャレンジが、いかに桁違いなものであるかがわかるであろう。

多くの分野へ超純水の供給実績を持つオルガノにとっても大きな挑戦となる、規模も質も桁違いの超純水とはどのようなものなのだろうか。望月が説明する。
「スーパーカミオカンデが要求する水質は、当時としては唯一無二の要求値でした。中でも、最大の難関が放射性物質の除去でした。鉱山の中は、空気中にもトリウムをはじめ、さまざまな放射性物質が存在します。とりわけラドンは最大の敵で、岩盤の割れ目からトンネル内や水槽内へじわじわと染み出し、水中で崩壊して放射線を出すと、スクリーンに不要な光のノイズを生み出し、ニュートリノの微光を覆い隠してしまうのです。一方で、超純水を作るシステムの中で、脱気といって水の中に溶け込んでいる不要な成分を空気で取り除く工程がありますが、鉱山内の空気を取り込んでしまうと空気中の不純物が再び溶け込んでしまうという矛盾を抱えることになります。ですから、水だけでなく空気までケアしないと要求に応えることができません。そこは我々の通常のビジネスで使う技術を超えた、まさにスーパーテクノロジーが求められたところです」

最大の難関である放射性物質をはじめ、イオン成分、有機物、微粒子など、あらゆる不純物を許容限界以下に抑え込むことで、「スーパーカミオカンデ仕様の超純水スクリーン」は実現する。本当にできるのだろうか?前例なき取り組みに時として心が挫けそうになる度に、望月は「やりましょう、絶対に成功させましょう」という梶田先生の言葉を胸に刻んで前へ進んだ。

FOCUS 02

究極の超純水を追究して、 難題に挑む。挑み続ける。

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for Cosmic Ray Research The University of Tokyo)

ラボと現地を行き来して 実験と検証を繰り返す。

超純水のスクリーンを構築するために、ラドンをはじめとする空気中の放射性物質までも除去する技術は、オルガノにとって全く新しい挑戦だった。どのようにして検証しながらシステムを組んでいけば良いのか、頭を悩ませた。

「ターゲットは明快で、観測の障害となるラドンを100分の1以下にすることでした。そこで、当社のラボに依頼して、ターゲットとなる水質に向けた検証と実験を行いました。ラボで成果が上がると、梶田先生と当社の技術者を伴って岐阜県神岡町まで赴き、現地検証を行いました。納得のいく結果が出るまで、ラボと現地との往復を繰り返し、超純水装置に工夫をこらしていったのです」と望月は言う。

梶田先生をはじめとする研究者と、オルガノのスタッフが一枚岩となるこだわりがあったからこそ、水のスクリーンは実現した。それは宇宙の窓の曇りを取り除き、観測精度を大きく向上させる、スーパーカミオカンデの成否を分かつ取り組みだった。

地上のノウハウが通用しない 鉱山内の水槽建設。

スーパーカミオカンデにとって、もうひとつの難題が5万トン規模の水槽の建設だった。専門の工事施工業者によって掘り抜かれた巨大な地下空洞に向かう約2kmの横穴式トンネルの中を、水槽建設のための資材を運び込んだ。

「映画『インディ・ジョーンズ』さながらトロッコに乗って鉱山の中に入り、発破を仕掛けて鉱山をくり抜くのですが、その圧倒的な光景を目の前にして脚がすくむ思いでした」と望月は言う。そして、「さほど大きくないトンネルの中を、巨大な重機や水槽の材料を運び込むのは、地上で行うようにはいきません。通常使える重機もトンネルの中に入りませんし、次から次へと課題が出てきました。それらの課題を一つひとつ解決するために、行ったり来たりして随時担当者をつないでいくことは大変でしたが、マネジメントの醍醐味を学んだ現場でもありました」と困難を極めた日々がよみがえる。

スーパーカミオカンデ建設の総工期4年3ヵ月、その内、水槽設置に1年、超純水の注入から満水にするまで数ヵ月。ついに、人類が宇宙の謎を解き明かすニュートリノを捉えるための新たな“目”を手に入れることになった。

宇宙劇場 「スーパーカミオカンデ」、封切り。 「スーパーカミオカンデ」、 封切り。

1998年、スーパーカミオカンデは、飛行するニュートリノが移動しながら別種類のニュートリノへと変身する「ニュートリノ振動」の現象を世界で初めて観測した。この発見は、ニュートリノが質量を持つことを証明した歴史的な出来事であり、当時の素粒子物理学の常識を超え、宇宙の進化や物質の根源に関する学究を大きく前進させた。そして2015年、このニュートリノ振動の発見により、東京大学の梶田先生にノーベル物理学賞が授与されることとなった。

さらに、スーパーカミオカンデは、太陽から飛来する太陽ニュートリノや、超新星爆発からのニュートリノ観測にも貢献し、宇宙のさまざまな現象を解き明かすための重要なデータを提供し続けている。これらの歴史的な宇宙の解明は、研究者たちのあくなき探究心と、ニュートリノの光をセンサーまで届けるための超純水のスクリーン、微かな光の粒をキャッチする13,000本の光電子増倍管がなければ実現できないことだった。

「梶田先生をはじめ、研究者の方々の要求に応える、世の中にない水質を作ることができた達成感は何物にも代えがたく、大きな評価もいただきました。梶田先生から非常に多くのことを学びましたし、同じ思いで臨めば成し遂げられないことはないと実感しました。このプロジェクトに参加させていただいた経験は、今でも私の大きな財産です」と、望月は言葉を噛み締める。

FOCUS 03

若い力に、
夢のプロジェクト経験を。

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(c)NIKKEN SEKKEI

世代を超えて、部門を超えて、 応えていく。

2020年、研究者たちはさらなる高度な観測を目指し、5万トンの超純水タンクに微量の「ガドリニウム」を添加し、新生スーパーカミオカンデとしての観測をスタートさせた。これは特に超新星爆発から飛来する反ニュートリノの検出効率を大幅に向上させるものだ。

この計画は、オルガノにとっても新たな挑戦となった。ガドリニウムは極めて高い純度で均一に水中に溶解させる必要があり、一方で添加によって新たな不純物が発生しないように超純水の品質を維持しなければならない。そこでオルガノは、東京大学宇宙線研究所と緊密に連携して、新たな水処理技術の開発に挑んだ。すなわち、水中の微量な不純物を除去しつつ、ガドリニウム自体は保持するという、特殊な機能を持つ「イオン交換樹脂」の開発だった。

「ガドリニウムと他の不純物を賢く分離する技術が必要とされました。そこで、ガドリニウムの安定的な溶解と、それに伴う水質変化への対応、そして長期的な純度維持システムを構築するために、我々が取ったのが技術者の連携でした。オルガノは当時からいくつかの事業部門に分かれていましたが、半導体関係の技術開発を担う技術者を、部門を超えて連携させることで、より高度なご要望に応える技術を提供することができました」と望月は説明する。

そして、「スーパーカミオカンデは、新入社員の私にとって、夢のプロジェクトでした。研究者の方々と同じ目的に向かって挑戦する。我々の持てる技術と知見のすべてを注ぎ込み、新たな知恵でプロジェクトの推進に貢献する。その喜びは、ビジネスを超えた達成感があります。こうしたアカデミックな夢のあるプロジェクトを、若い社員もぜひ経験してほしい。その経験は必ずや血となり肉となって自身を成長させてくれます。そして、オルガノもまた、水を通して夢を提供できる企業であり続けたいです」と望月の言葉に熱がこもる。

5万トンの超純水のスクリーンは、ニュートリノが発する微かな光とともに、夢の力を信じ、水の力で応えるオルガノの揺るぎない使命感を映し出している。

やがて、この時のガドリニウムに関するオルガノの協力が、スーパーカミオカンデの約10倍の体積を持つ次世代ニュートリノ観測装置「ハイパーカミオカンデ」プロジェクトへとつながっていく。研究者たちの情熱によって加速度的に進化する観測装置を通して、この先も宇宙の謎は次々とヴェールを脱いでいくことだろう。それはまさに宇宙形成のドラマの解明であり、オルガノは宇宙劇場を上映するパートナーとしてともに挑み、支えていく。

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プロジェクト概要

施設名

スーパーカミオカンデ

期間

1991年〜1996年

納入設備

5万トンの超純水製造システム、ラドン除去装置(脱気システム)、ガドリニウム導入・回収システム (2020年)